以前『わかったつもり』の記事で、私はこう書いた。「FPの係数や税金の計算は、読めば分かるのに、自分で電卓を叩くと詰まる」。——今日は、その“あの係数”を、ちゃんと片づける回だ。
FP3級の最初の分野(ライフプランニング)で出てくる、6つの係数。終価係数、現価係数、年金終価係数、減債基金係数、年金現価係数、資本回収係数。……どうだろう、もう名前を眺めただけで、そっと教科書を閉じたくならないだろうか。私は最初、この6つを根性で丸暗記しようとして、頭の中で見事にごちゃ混ぜになった。終価だっけ、現価だっけ、で毎回手が止まる。
でも、抜け出すコツはたった一つだった。丸暗記をやめて、「何を求めたいか」で選ぶ。これだけで、6つの呪文はちゃんと意味を持ちはじめる。具体的な数字で6問、一緒に手を動かしていこう。
そもそも“係数”って、何をしてくれる数字?
問題に入る前に、係数の正体だけ押さえておく。ここが腑に落ちると、6つが急に身近になる。
係数というのは、ざっくり言えば「面倒な複利計算を、掛け算1回で終わらせてくれる便利な数字」だ。本来、お金を年利2%で10年運用したら…という計算は、利息にまた利息がついて、電卓を何度も叩くハメになる。その面倒を、あらかじめ「この条件なら、この数字を掛ければ一発だよ」とまとめてくれたのが係数表だ。
そして、ここがいちばんの安心材料。試験では、係数の値は問題文に与えられる。「終価係数1.219」のように、表が問題に載っている。つまり私たちが暗記すべきは“値”じゃない。「どの係数を選んで、何に掛けるか」——その判断だけでいい。丸暗記しようとして溺れていた昔の私に、まずこれを教えてあげたい。

黒猫:値を覚えようとするな。それは試験のほうが用意してくれる。お前が鍛えるのは“どれを選ぶか”だけだ。
6つは“3つのペア”で見ると、急に整理される
6つをバラバラに覚えようとするから、混乱する。実はこれ、きれいに2つずつ、3つのペアになっている。先にこの地図を持っておこう。
①一括のペア:終価係数 ⇔ 現価係数(まとまったお金を、一度だけ預ける話)
②積立のペア:年金終価係数 ⇔ 減債基金係数(毎年コツコツ積み立てる話)
③取り崩しのペア:年金現価係数 ⇔ 資本回収係数(まとまったお金を、毎年取り崩す/受け取る話)
各ペアの中身は、「未来の額を求める」か「今の額を求める」かの“裏返し”になっている。だからペア同士は、数学的には逆数の関係。片方が分かれば、もう片方は表の反対側にいる、くらいの気持ちでいい。
【問1】100万円を預けたら、10年後いくら?
手元の100万円を、年利2%で10年運用する。さて、10年後にはいくらになっている?
一括で預けて、“未来の額”を知りたい。これが終価係数の出番だ。「終価=最終的な価値=未来」と読むといい。
使う係数:終価係数(2%・10年=約1.219)
100万円 × 1.219 = 約121.9万円
預けた100万円が、10年で約122万円に育つ計算だ。利息にまた利息がつくから、100万円ぴったりより少し増える。
【問2】10年後に100万円ほしい。今いくら預ける?
今度は逆向き。10年後にちょうど100万円にしたい。年利2%なら、今いくら預けておけばいい?
“未来の目標額”から、“今いくら必要か”を逆算する。これは問1の裏返し、現価係数だ。「現価=現在の価値=今」。
使う係数:現価係数(2%・10年=約0.820)
100万円 × 0.820 = 約82万円
今82万円を預けておけば、10年後に約100万円になる。問1(未来を求める×1.219)と問2(今を求める×0.820)を見比べると、ちょうど裏返しの関係なのが分かる。

白猫:終価で増やしたぶんを、現価で巻き戻す。同じ“一括”の話を、未来から見るか今から見るか、それだけの違いなんだ。
【問3】毎年10万円ずつ積み立てたら、10年後いくら?
ここから“毎年”の話に入る。毎年10万円ずつ、年利2%で10年間、コツコツ積み立てる。合計でいくらになる?
毎年の積立から、“未来の合計額”を求める。これが年金終価係数。「年金(=毎年)」+「終価(=未来)」と分解すれば、名前のまま読める。
使う係数:年金終価係数(2%・10年=約10.950)
10万円 × 10.950 = 約109.5万円
ただ積み立てるだけなら10万円×10年=100万円。そこに利息がつくぶん、約109.5万円に増える、というわけだ。
【問4】10年後に100万円ほしい。毎年いくら積み立てる?
目標は、10年後の100万円。これを“毎年の積立”でつくるには、年いくら積めばいい?(年利2%)
“未来の目標額”から、“毎年の積立額”を逆算する。問3の裏返し、減債基金係数だ。名前が6つの中でいちばん厳ついが、やることは「目標額から、毎年の積立を出す」だけ。
使う係数:減債基金係数(2%・10年=約0.0913)
100万円 × 0.0913 = 約9.13万円
毎年およそ9.13万円ずつ積み立てれば、10年後に約100万円。問3とちょうど裏返しの関係になっている。
【問5】これから毎年10万円受け取りたい。今いくらあればいい?
退職後の生活などをイメージしよう。これから10年間、毎年10万円ずつ受け取りたい。年利2%で運用しながら取り崩すとして、今いくら原資があればいい?
“毎年の受取”から、“今必要な額”を求める。これが年金現価係数。「年金(毎年)」+「現価(今)」だ。
使う係数:年金現価係数(2%・10年=約8.983)
10万円 × 8.983 = 約89.8万円
今およそ89.8万円を用意して運用すれば、10年間、毎年10万円ずつ取り崩していける計算だ。
【問6】今ある100万円を10年で取り崩す。毎年いくら受け取れる?
最後の1問。今ある100万円を、年利2%で運用しながら、10年でちょうど使い切る。毎年いくら受け取れる? ——じつはこの形、住宅ローンの「毎年の返済額」を出す計算とまったく同じ仕組みでもある。
“今ある元本”から、“毎年の受取(または返済)額”を求める。問5の裏返し、資本回収係数だ。「資本(元本)を回収していく」と読めば、意味とつながる。
使う係数:資本回収係数(2%・10年=約0.1113)
100万円 × 0.1113 = 約11.1万円
100万円から、毎年およそ11.1万円ずつ、10年かけて受け取れる。ローンに置き換えれば「100万円借りたら、毎年約11.1万円ずつ返す」になる。
迷ったら、“求めたいもの”で一発判定
6問やってみて、気づいたと思う。やることは毎回「条件に合う係数を選んで、掛けるだけ」。その選び方は、次の順番で考えればいい。
- まず“一括”か“毎年”か:お金を一度だけ動かすなら①のペア、毎年コツコツなら②③のペア
- 次に“何を求めたいか”:未来の額なら『終価』系、今の額なら『現価』系
- “毎年いくら”を求めるとき:積立額なら減債基金係数、取り崩し額(・ローン返済)なら資本回収係数
名前も、分解すれば読める。「終価=未来の価値」「現価=今の価値」「年金=毎年がからむ」。この3つの語感さえ握っておけば、6つの呪文は、もう呪文じゃなくなる。
私が模試でやらかした、典型的な選び間違い
えらそうに解説してきたが、白状すると、私は模試で見事にこれをやらかした。「10年後に100万円ほしい。毎年いくら積み立てる?」という、まさに問4のタイプだ。
私は問題文をナナメ読みして、「100万円」「毎年」というキーワードだけを拾い、なぜか年金終価係数(問3)のほうを選んでしまった。求めるのは“毎年の積立額”なのに、“未来の合計額”を出す係数を掛けたわけだ。当然、答えはあり得ない数字になって、選択肢のどれにもかすりもしない。そこでようやく「あ、向きを間違えた」と気づいた。
このとき痛感した。事故は計算じゃなく、問題文の読み取りで起きる。「未来の合計を求めるのか、毎年の額を求めるのか」を最初に見極めていれば、絶対に防げたミスだった。それ以来、計算を始める前に、問題文の“求めたいもの”にぐるっと丸をつけるようにした。たったそれだけで、係数の正答率は目に見えて上がった。
試験で気をつけるのは、結局ここだけ
最後に、つまずきポイントを正直に。現金過不足の記事でも書いたけれど、この手の論点は“覚える量”より“選び間違い”で落とすことのほうが、ずっと多い。
係数の値は問題文にある。だから本番でやることは、①一括か毎年かを読み取る、②未来・今・毎年のどれを聞かれているか読み取る、③対応する係数を選んで掛ける——これだけだ。逆に言えば、問題文の「いくら必要?」「将来いくら?」「毎年いくら?」を読み飛ばすと、一発で違う係数を選んでしまう。計算よりも、問題文の“何を聞かれているか”を丁寧に読むこと。ここが、本当の勝負どころだ。
6つの係数は、名前で人を脅してくるわりに、やっていることはどれも素直だ。一括か毎年か、未来か今か——それを読み取って、表の数字を掛ける。ほんとうに、それだけ。
丸暗記しようとして混乱していた昔の私に、言ってやりたい。「覚えるな、読み取れ」と。次にこの論点に出会ったら、まず問題文を指でなぞって、“何を求めたいか”に丸をつけてみてほしい。たぶん、選ぶべき係数が、自然と浮かんでくるはずだ。
係数は、暗記じゃない。「一括か毎年か・未来か今か」を読み取るゲームだ。